CYCLINGERS U

放浪黙示録

 

誰にでも、子供のころ『ヒーロー』がいたはずだ!
みんな、あこがれのヒーローになろうと、
目を輝かせたはずだ!

・・・そして年月はすぎ、
ヒーローたちの姿は埃の中に埋もれ、
忘れ去られてしまった。

 

しかし、大人になっても、
心の中のヒーローたちがまだ光り輝いているヤツらもいる!

ヒーローたちは『夢』『ロマン』『カッコよさ』と名を変え、
彼らの心の奥底までしっかりと根を張った!

雲を追いかけろ! 虹をつかめ!

たった一度の人生、大切になどするな!
バカバカしく使いまくれ!

この物語は、荒野に宝石を見た者たちの、激情の記録である

 

オレの名は「フィールド・ライト・2世」! サイクリンガー明の自転車です!

このかっちょいい名前は、「荒野にきらめく一条の光」をあらわしています。

け、けして、誰かの名前の英語読みじゃないぞ!!

 

オレが語り手となって、サイクリンガー明のぼうけんをみんなに届けるぜ!

目ん玉かっぽじっておがみやがれ!!

 

熱病篇

 

さて、サイクリンガー明は、カトマンズでは優雅に暮らしたようです。

古本屋で、

アガサ・クリスティー「ABC殺人事件」

コナン・ドイル「恐怖の谷」

アイザック・アシモフ「神々自身」

パメラ・サージェント「エイリアンチャイルド」

を購入。

ネパールの古本屋では、日本の文庫本が、一冊約300円。けっして安くありません。

普段の走行中の一日の生活費が500〜600円ということを考えると、ものすごい出費です。

これがウワサの活字中毒でしょうか?

さらに、メタリカ「LOAD」ボン・ジョビ「CROSSROAD」のテープまで買ってしまいました。

サイクリンガー明にとって、本とロックはなくてはならないもののようです。

「アシモフの「神々自身」は、後ろのほうのページが破れてた。でも、よく調べてみると訳者解説のページが破ってあるだけだった。そして、ページが破れてることを理由に、100円もまけさせた! フフフ!!!」

サイクリンガー明は、カトマンズに5日滞在し十分休養をとったあと、ポカラに向かって出発しました。ポカラは、ネパール国王の別荘があるのどかな町です。カトマンズの西方約100km。1〜2日の距離です。

カトマンズを出てしばらくは、来るときにも通った道です。

「あとちょっとで上りきれたのに、どうしてヒッチなんかしちまったんだろう!」

こんなことを言っても後の祭です。

「まぁ、この悔しさをバネにすれば、イスタンブールまでなんて、ちょろいもんさ!」

ものはいいようです。

さて、ここで、この後のサイクリンガー明のルートを聞いてみましょう。

「まずポカラに行き、その後イーストウェストハイウェイ(ネパールを東西に横断する道路)を西へ向かい、ネパール横断。再びインドに入り、首都デリーへ。デリーで、パキスタン・イランのビザをとる。

そして、ちょちょいのちょいと、パキスタン・イランを横断し、その勢いで、へへ〜んとトルコも横断だ! あっという間にイスタンブールって寸法さ!」

『寸法さ!』じゃありません。パキスタン〜イランにかけては、砂漠地帯が存在し、イラン〜トルコは起伏が激しい高原地帯です。こんなことで大丈夫でしょうか。

さて、カトマンズを出た日の夜のことです。その日は、道の脇の道路側からは見えない空き地にテントを張ることにしました。なかなかのグッドプレイスです。

そして深夜・・・・。

「頭が痛くなり、寒気がしてきた。どうやら、熱が出たらしい。眠ってごまかせ!と思っても、苦しくて眠れない。おまけに、腹が痛くなり、うんこをしてみたら、ひどい下痢。苦しくて、苦しくて、悪夢の世界にいるみたい。熱をはかったら、約40度。こりゃやべー! 原因を考えてみたが、特に思い当たることはない。マラリアかもしれないと思ったが、それにしては症状が軽い。(もちろん、罹ったことないからわからないけど)

こういう時には、悪いことばかり考えてしまう。

このまま死んでしまうとしたら、ものすごくさびしいな、と思った。

故郷を遠く離れた異国の地で、誰にも知られずひっそりと死んでいく。『孤独』というのは、こういうのをいうんじゃないだろうか。

家に帰りたくてたまらない。日本なら、いくらつらくても、病院にいけるし、薬もある。手を貸してくれる人もいる。安全なベッドで、うんうんうなっていればいい。

でも、ここはネパール。ここでうなっているときに山賊に襲われるかもしれないし、野犬がくるかもしれない。自分が『法律に守られた人間』じゃなく、『動物の一種類としての人間』という実感がわいた。

いくら日本で、『政府は最低だ! 法律なんかくそくらえ!!』と、アナーキストをきどったとしても、怪我をしたり病気になれば、結局外部の助けをたよりにしてしまう。文明の中で暮らしている限り、自分が苦しんでいるときに誰も助けてくれないのは不条理だ、と思ってしまう。

『人間は幸せに生きる権利がある。』とかいうのは、『人間社会』というシステムのなかにいてこそ、はじめていえることだ。『人間』として生きたければ、システムの中のひとつのパーツでいなければならない。

こういうのは、理屈として頭ではわかっていたが、今回ようやく実感がわいてきた。

ほんとうに『自由に生きる』というのは、いつ、どんな出来事で命を失っても、誰にも文句を言えないということなのだ。

うむ、『人間は考える猿である』。いい言葉だ。

*マラリアには、三日熱・四日熱・熱帯性、などの種類がある。

絶対性以外の致死率は低く、健康な成人男性が死亡することはほとんどない。・・・らしい。

しかし、この寝苦しい夜を、サイクリンガー明は根性で乗り越えたようです。

次の日、頭がガンガン痛むのを我慢しながら先に進むことにしました。本当は、1日ゆっくりと休むべきだったのですが、何もない山の中で休むよりは、無理をしてでも安ホテルのベッドで眠ったほうがいいと思ったのです。

上り坂では力むたびに頭がガンガンし、下り坂では、でこぼこ路面の振動が響き頭がガンガンしました。衝撃は内臓にまで響き、地獄のような苦しさだったそうです。しかも、標高差30〜40メートルほどの小さなアップダウンがひたすら続きます。

何度も休憩しながら進みました。途中、どうにも動けなくなって、雑貨屋の軒下で昼寝させてもらったそうです。その店の親父は、1本22円と言っていたコーラを20円にまけてくれました。サイクリンガー明は、その小さな親切がとてもうれしかったそうです。・・・・たかが2円・・・・。

「金額の問題じゃねーよ! つらそうな旅人に、ちょっとだけまけてくれるという気持ちがうれしかったんだぜ!」

なんとか50キロほど進むと、バス停のある小さな村にたどりつきました。

バス停のある村には、たいていホテルがあるので、サイクリンガー明はよろこびました。少し探し回り、なんとか1軒のホテルをみつけました。

すぐさま飛び込み値段を聞くと、小汚くて窓のないツインの部屋が120ルピー(250円)。

「もっと安いシングルの部屋はないのか! 250円は高すぎる!」ってオレは言ったね。

しかし、運悪くその日はネパール人の団体客が入っていたらしく、他の部屋は空いていませんでした。

熱が出てつらくても、安い部屋に泊まろうとするとは、さすがサイクリンガー明です。だいたい、250円のどこが「高すぎる」のでしょうか。

他の宿を探そうにも、とても小さな村なので、さっきのところが村に唯一の宿かもしれません。もし、ここを出て他の宿を探しているうちに、部屋をとられてしまってはたいへんです。

が、日ごろの節制を貧乏の神が認めてくれたのか、もう一軒の宿が見つかりました。一泊110円。

「タイで泊まったような、ベッドの広さしかないような部屋だったけど、激安値がグッときたね。うん、いい部屋だったよ」

次の朝、サイクリンガー明はさわやかに目覚めました。

一晩で熱はすっかり下がったようです。結局なんだったのでしょうか。

「熱が下がったのはいいけど、昨日の晩、家畜の悲鳴がずっと聞こえてたのにはたまげたな。どっかでさばいてたんだろう。あんな悲しそうな絶叫は聞いたことないぜ。普段肉を食うときは、なにも気にせず食ってるけど、やっぱりその肉の持ち主も、ものスゴイ悲鳴をあげて死んでいったんだろうな。なんか、肉を食いにくくなったぜ。」

しかし、夜さばかなくても。付近の住民から苦情はこないのでしょうか。

「イヤな夢をみた。ポカラにつき、そこから日本に帰る夢だ。まぁ、こういう夢はよくみる。夢の中でふと気づくと、なぜか日本に帰ってきている。日本に帰ってきた理由が『はぶらしがなくなったので、取りにくるための一時帰国』だったり。この手の夢を見ると、挑戦に失敗したような、すごくむなしい気分になる。で、目がさめると、『いや、大丈夫だ! オレはまだ外国にいる!』って感じでホッとする。そう思いながらも、『日本じゃないのか・・・・ガックリ』と気を落とす自分がいたりする。複雑な男心だぜ!!」

さて、この日彼はまたもや強烈な男と出会いました。

男の名はミシェル。ベルギー人サイクリストです。

サイクリンガー名鑑2

サイクリンガー・ミシェル

身長190cm以上。いつもニコニコしたスマイル男。

年齢は、30くらい?

8年かけて世界一周するそうだ。

ベルギーをでて、ヨーロッパ各地をまわり、中東を通りネパールへ。

これから、インド・バングラデシュを通り、東南アジアへ向かう。

ここまでで約9ヶ月。まだまだ先は長い! がんばれ、サイクリンガー!

ミシェルはちょうどサイクリンガー明と逆のルートをとっているようです。

二人は道の脇で情報交換を行いました。

サイクリストにとって重要な『道路情報』『食糧事情』『野宿情報』などは、普通のガイドブックには載っていません。そのため、路上での出会いは、情報入手の絶好の機会。

彼らにとって非常に幸運なことといえます。

ここでサイクリンガー明は『パキスタンはクレイジィドライバーの国だから気をつけろ!』と警告を受けました。インドでも十分クレイジィなのに、もっとひどいのでしょうか?さらに、土地が乾燥しているため、砂埃がすごいそうです。

いきなり気が重くなる情報入手です。

そして、サイクリンガー明はポカラに到着しました。

 

ポカラで遭遇! 沈没野郎!!

 

サイクリンガー明は、「日本人宿」と呼ばれる安宿に滞在することにしました。

日本人宿とは、貧乏旅行する日本の若者が集まる宿のことです。

「ここは日本人宿です」という看板がでているわけではなく、旅行者の口コミで、「あそこは安い、日本人が多い」と伝わり、いつのまにか泊まりに来るのは日本人だけ、という感じです。

日本人宿には、片言の日本語を話す主人がいたり、旅行者が置いていった日本の雑誌などがあるので、長旅の疲れを癒すにはもってこいです。

また、「情報ノート」と呼ばれるノートが置いてあることが多く、それには旅人の伝言や、旅行情報などが描いてあるので、情報収集にも役立ちます。

しかし、まぁ、日本人というのは、どこでも群れたがるものですね。

サイクリンガー明も、「俺は孤独な一匹狼!」とかいいながら、ちゃっかり日本人宿なんかに泊まるなんて! こんなヤツには、そのうち、不幸の神が天誅を下してくれるでしょう。

今回彼が泊まった宿では、晩飯が日本食というイカす特典がついていました。

(しかし、値段は普通のネパール料理の倍以上する。なんと、約180円。たけー!! ちなみに、宿代は一泊110円)

さて、サイクリンガー明の泊まる部屋は、3ベッドのドミトリー(相部屋)です。

部屋には、先客として、20代後半の青年がいました、

サイクリンガー明は、とりあえずあいさつしました。しかし、彼は返事をしません。聞こえなかったのでしょうか。

「いや、そんなはずはねーぜ。どうも、妙な雰囲気の青年です。サイクリンガー明をまるで無視しているような感じです。

とりあえず、サイクリンガー明は外に飯を食いに行きました。

食事から帰ってくると、同室の青年は、なにやら自炊をしています。それをネタに話し掛けてみました。

今度はなんとか会話に成功しました。

なんと、彼はこの宿に2ヶ月もいるそうです。

彼は「あんた、こっちきてどれくらいになるの」と、サイクリンガー明に聞きました。

なんか無礼な話し方に、サイクリンガー明は「なんだコイツ!?」と思いましたが、「まぁ、誰にでもダメ口をきくやつってのは、どこにでもいるよな」と思い、質問に答えました。

「いやぁ、ぼくはまだ、インド入ってから半月ですよ」

すると、青年は、ちょっと横を向き、鼻で笑い「フッ、まだ半月?」といいます。

な、なんだコイツー!!

サイクリンガー明は、男の態度に面食らいましたが、会話を続けるため、いろいろ質問しました。態度はヘンでも、ものすごい旅の達人かもしれません。

「ポカラはいろいろ見て回られたんですか?」

「・・・いや、ちょっとだけ・・・」

「じゃあ、トレッキングとかされるんですか?」

「・・・・トレッキングはしない・・・・」

いったいテメーは、2ヶ月もなにしてんだー!

サイクリンガー明によると、この男のしゃべり方は、人を小ばかにしたようなところがあったそうです。

しかも、あったばかりなのに「日本円で五千円貸してくれ」といいです始末。

テメーみたいなあやしいヤツに、金貸すやつがいるかー! ボケー!!!

サイクリンガー明は、次の日、宿の主人に部屋を替えてもらいました。ドミトリーで物を盗まれるという事件は、しばしばおこります。

部屋を替えてもらうというのは、良い選択と言えるでしょう。

日本人宿にはじめて泊まったサイクリンガー明は「日本人宿に来るヤツは、こういうヤツばかりなのかー!」と思いました。

「こんなことなら、別の宿で外国人ツーリストと同室になったほうが、英語の勉強にもなるし、よっぽど良かったぜ」

しかし、新しい部屋で同室になった人たちはとても楽しい人たちだったので、サイクリンガー明はほっとしたそうです。中でも、一人とはとても気が合い、楽しく過ごせたそうです。

あの、「2ヶ月同じ宿同じベッドで毎日ゴロゴロしていた男こそ、俗に言う『沈没野郎』だったのです。

サイクリンガー明は沈没野郎についてこう語ります。

「まぁ、最初は『なんだコイツは!』と思ったけど、なかなかめずらしいものを見ることができたと思えば問題なし!」

この宿のご飯は、少し高いけど、たべほうだいです。しかも、畳の上であぐらをかいて食べることができます。これ以上の贅沢があるでしょうか!!

サイクリンガー明はここぞとばかりに食べまくります。なにかにとりつかれたかのように食べまくります。他の人がいなくなっても食べまくります。

妙な味の肉じゃがを、腹がぶち破れるまでたべまくります。

同室の男も、サイクリンガー明に負けじと食べまくります。

そして、二人とも身動きができなくなるまで食べ、40分間畳の上で大の字になって寝そべっていました。

「いやぁ、食いまくったね! ほんとに動けなかったね!」

ポカラは、のんびりとした町です。日本の若者を多く見かけます。この町では、初対面でも、なんとなく気軽に話ができるので、サイクリンガー明は、いろんな人と話をしたそうです。

「あるとき、二人組の女の子達と一緒にめしをくった。自転車のことは話さないようにと思っていても、話し込んでるうちに、つい口から出てしまう。(そりゃそうだ)。

で、スウェーデンのヤンのことを話し、『人間の器』のことをいったら、『それは人それぞれじゃないかな。他人と比べてもしょうがないよ』と言われた。確かにそうだが、やはり、自分の限界を感じてしまうというのはつらい。」

サイクリンガー明は、ポカラに5日滞在しました。毎日曇り気味だったので、ポカラからとてもきれいに見えるはずの「マチャプチャレ」という山を見ることができませんでした。

しかし、出発の日の朝、隣の部屋の人が「今日は見えますよ」と起こしてくれました。

宿の屋上から見えるマチャプチャレは、とてもきれいだったそうです。

さて、この町で、サイクリンガー明の体に異変がおきました!

なにがおこったのでしょうか!

「2週間くらい前から、奥歯のあたりに妙な痛みが走っていた。

虫歯かな?とも思ったが、なんか違う気もする。

そして、ついに痛みの原因が判明した!

なんと、親知らずが生えてきたのだぁ!

おぉ! これはスゴい! こいつがウワサの親知らずか!」

もうひとつの異変は?

「こいつはちょっとヤバいかもしれん。

常になにか食べてないと落ち着かない!

腹がいっぱいでも、食べ物の匂いをかぐと、なにか食べたくなってしまう。

毎日、みかんとバナナを買い、食いまくった!

普段、ろくなもの食ってないから、その反動か?

なんか、脳の満腹中枢がイカれたみたいな感じだ!

それとも、胃袋がヘンになったのか?

胃がヘン・・・・これぞまさに異変。いや胃変。」

・・・・・・・・・。

ポカラでサイクリンガー明が買った本。

アガサ・クリスティ「死者のあやまち」「スタイルズ荘の殺人」

ジョン・ヴァーリィ「ティーターン」

 

サイクリンガー明は、見事なマチャプチャレを見た日に、旅を再開しました。

ポカラに5日滞在。彼はこの町をとても気に入ったようです。

ポカラから75km。標高差100メートル程度の小さな上り下りがひたすら続きます。しかも、なかなかの悪路です。

「でこぼこ道の振動のせいで、後ろのバッグにいれておいたみかんをおとしちまったぜ!チクショー! 1kg50円もしたんだぜ!? このオレの悔しさわかってくれ!」

さて、その日は、日没ころ小さな村についたので、彼は宿でも探してみることにしました。

「村に一軒のホテルをみつけたね。一泊450円だったね。高いね。泊まるのやめたね。」

しかし、その時のサイクリンガー明には、さらに先へと進み、野宿地をみつける元気はありませんでした。

「オレは考えたね。警察にいったね。これまで、警察では2回ほど泊まったことがあったね。」

サイクリンガー明は、その町の警察署に行きました。小さな町だったので、おんぼろ警察署だと思っていたのですが、予想に反しなかなか立派な警察署でした。

「庭が広かったから、スミにテントを張らせてくれ、って頼んだんだが、責任者がいないからって断られちまった! ホテルへ行け!と言われたけど、金がない!と言い返したら、よし、オレが80円で泊まれるよう交渉してやる!と言い出した。

おぉ!それはスゴい!と思ったが、俺は、まだ高い!といってみた。

そしたら、よし、40円で泊まれるよう、宿のオヤジに言ってやる!ときた!

よっしゃー! 決定! ラッキー!

・・・・と思ったら、エラい人が帰ってきて、テントくらい好きなとこに張れ、とのお許しが出た。

オレは、警察署の立派な芝生のど真ん中にテントを張った。

・・・・40円の宿は、ちょっと惜しかったな・・・・。」

あいかわらずセコさ爆発してます。

そして、二日かかって、彼はようやく平野地帯まで下りてきました。

そこまでの道のりは、長く、デコボコで険しかったといいます。

二日連続のパンクに苦しめられたといいます。

「でも、チベットにいったりするヤツらは、デコボコ道やパンクなんか、毎日のことなので、これくらいで根をあげていられないな!」

平地にたどりついたサイクリンガー明は、「よっしゃ! 今日から距離を稼ぐぞ!」と張りきっています。

・・・しかし・・・猛烈な向かい風が彼におそいかかります。

「最初は、それでも12km/h程度のスピードがだせた。それが、10km/h、8km/hとなり、しまいには、6km/hしか出せなくなる。速歩きの速度だ。5km/h以下になると、自転車は倒れる。

オレがなにか悪いことでもしたのかよー!と言いたくなる。

同じ低速状況でも、上り坂なら、位置エネルギーをためていると考えれば少しは気が休まるけど、向かい風というのは、ただただエネルギーを吸い取られているだけだ。こんなに悔しいものはない。」

サイクリンガー明に襲いかかる苦難は、これだけではありませんでした。

「西のほうは、村が極端に少なくなり、あったとしても雑貨屋が1軒あるかないかというような小さな村ばかりだ。水や食料の補給が困難になってきた。

水は、できることならなるべく避けたかったが、山の涌き水を飲んだ。(肝炎の原因となる)

はらぺこで到着したある集落で、ダルバート(ネパールの定食)をたべたが、ハエのすごいことすごいこと。こんなにたくさんのハエをみたのははじめてだ。

当然、めしにもとまる。当然、食堂のおばちゃんは気にしない。オレも気にしない。しかし、めしにとまるのはいいが、耳や鼻に入るのはやめてくれ!

しかし、一番フシギだったのは、ハエに一番人気があったのが、地図だったことだ。

オレは、めしを食うときには、日記帳と地図を出し、予定をたてたりしながら食うんだが、地図にびっしりとハエがたかって、とても計画をたてられない。」

まだまだ苦難は続きます。

「日本から持ってきたRAGEのテープの調子が悪い! テープがウォークマンの中でビロビロになってしまう! ここまでか、RAGE? これはきっついぜー!

テープを巻き直せば、まだなんとか聴けるので、走行中は聴かないようにしよう・・・・」

もういっちょ不幸いってみる?

「道が二本に分かれていたので、どちらに進めばいいのか村の男に聞いてみた。

(インド製の地図では、両方とも工事中のマークがついていた。先のほうで合流しているので、道のいいほうを通ろうと思った。)

男に言われたほうの道を進む。念のため、もう一人の男に聞いてみたが、同じ道を推薦してきたので、安心して進む。

しかし、飲み物を買った店で会った男は、こっちの道はダメだ、と言う。

いまさら戻るのはイヤだったので、(20kmくらい無駄になる)そのまま進む。

舗装はだんだん悪くなり、ついには舗装がなくなる。

道もものすごく細くなり、どうみても主要道じゃない。

やがて、小さな村があらわれたので、道があっているか聞いてみる。

道は間違っていた!

いまさら戻れってか!

すると、多少英語を使える青年があらわれ、秘密のショートカット道路を教えてくれる。しかし、青年が指差す先には、ジャングルが広がっている(ジャングルといっても、ターザンがでてくるようなのじゃなくて、森林地帯のこと)

道はかなりややこしいらしく、先々であらわれる村で道を尋ねながら進まなければいけないそうだ。

青年は、道をたずねるネパール語を教えてくれる。

なんか、とんでもないことになりそうな感じがしたが、もうどうにでもなれ!という気持ちで、ジャングルの中に特攻した。

・・・もう、道はすごいわ、方角はサッパリわからないわで、やはり大変なことになった!

道は、蟻の巣のようにアヤしく枝分かれし、うねうねと曲がっている。おいおい、大丈夫かー!

2〜3キロごとに村があるので、なんとか道を聞きながら進む。

・・・それにしても、この村というのがすごく、とても現代世界の村だとは思えない。

オレは弥生時代にタイムスリップしたのか?

電線は当然通ってなく、家も、竪穴式住居みたいなのがあったりする。

水路が掘ってあり、各家の隣を通っているのが、妙に生活感がある。

村に1台くらいはジープがある。きっと村の財産なんだろう。

ある村で、数人の少年たちが道案内をしてくれた。

ものすごい悪路を超スピードで駆け抜けていき、あっという間において行かれてしまう。しかし、ちゃんと戻ってきて、また導いてくれる。(もちろん、またすぐに超スピードでふっとんでいくが)

それまでは、かろうじて道と呼べる、ジープの轍のあとを走っていたのだが、少年たちは、獣道のような、とんでもないところを疾走していく。

こんなところでおいて行かれたら、マジでシャレになんねー!

少年たちは、今までの村よりも多少近代的な村まで案内してくれ、この道(ちゃんと「道」と呼べる道だ!!)をまっすぐいけば、大きい道にでられる!と(ゼスチャァで)教えてくれる。

そしてしばらく進むと・・・・やや!?あれに見えるは鉄塔では!

あれは電線では? あ、あれはトラックのクラクションの音では??

バンザーイ! 舗装道路に出られたー!!

うぅ・・・オレはうれしいよ。生きて再び舗装道路にでられるなんて!

まぁ、大変な目にあったが、なんとかなったので良し!!」

と、まぁ、こんな感じの不幸が、次々と彼に襲いかかったわけです。

しかし、彼は、この後真の恐怖が待っているとは知りませんでした。

 

 

次回、放浪黙示録・サイクリンガーズU

戦慄! 闇の中に響く野獣の咆哮! 『サイクリンガー明 VS 野獣軍団』

乞う! 御期待!!!

 

 

「いやー、マジで怖かった!」 サイクリンガー明:談

 

サイクリンガー明 VS 野獣軍団

 

その日、サイクリンガー明は、ちょっとでも距離を稼ごうと、日没直前まで走りまくりました。

村のない森林地帯を爆走していると、道の脇に、草の生えてない台地のような場所が見つかりました。 グッド・テンティング・サイト!

※テンティング・サイト・・・・テントを張る場所。ホアド語。

サイクリンガー明は迷わず直行! テントを張る場所がうまいぐあいに見つかると、とても気分が良いものです。

しかし、道路のほうに一人の少年があらわれ、サイクリンガー明がテントを張るのをじっと見つめ始めました。

サイクリンガー明は「このあたりに村があるのかな?」と思いましたが、テントを張り終えてしまったので、そのままそこで寝ることにしました。

日はとっぷりと暮れ、あたりが闇に包まれたころ、恐怖はやってきました。

「なんか、森のほうからニャーニャーいう鳴き声が聞こえてくるんだ! 山猫がいるのかー!?と思った。だんだん鳴き声は増え、いつのまにかまわりすべての方向から聞こえてくるようになった。山猫は狂暴らしいから、バッグの中の食料狙われたらかなわんなぁ!と思った。

と、そのとき、懐中電灯の光がテントに向かって投げかけられた!

外にでてみると、4人の少年が立っている。

ははーん! さっきの少年が『ヘンなヤツがいるぜ! 遊びに行こう!』と友達をさそってきやがったな! うっとーしいのでさっさと追い返して寝るぜ!

・・・・と思ったが、なんかすごくマジな顔をしてる。なんだコイツらー!

少年たちは、さかんに道路のほう(オレの目的地の方角)を指差し、オレを連れていこうとする。

なんだよテメーら! 今日はいい野宿地が見つかってウキウキだというのに! テメーらのこぎたねぇ村に行く気はないぜ!

しかし、少年たちはかなり強情で、ムリにでもオレを引っ張っていこうとする。

しかたないので、テントをたたみ、彼らの村に行くことにする。一度張ったテントをたたむのって、すっげぇイヤなんだよな! もちろんガキどもに手伝わせてやったぜ!(かなりうれしそうだったが。特に、ポールをたたむときなんか)

自転車を荷物にセットし、1kmくらい進むと、犬の吠え声がうるせぇ村に到着。

村といっても、道路沿いに家が10件ほどあるだけだ。

村には、英語を話す若者が数人いた。なかには、日本語の単語をいくつか知ってるヤツもいた。どうやらこのあたりに、観光地があるらしい。青年は、そこのガイドというわけだ。

青年は言った。

 

『このへんにはトラがいる。おまえ、テントなんかで寝てたら食われるぜ!』

 

・・・・・・・。

 

・・・・トラってニャーニャー鳴くのか・・・・・。

 

 

その晩は、村のワンワン、森のニャーニャーの大合唱プラス、蚊のプンプンでちっとも・・・・・眠れたぜ!」

け、結局、鳴き声聞いただけ? しかも、ほんとにトラかどうかわかんないじゃん!

「うるせぇ! あれはトラだ! 間違いない! 次の日の朝、村の前に森の奥へと伸びる道をみつけ、標識をみたら『NATIONAL PARK:MOUNTAIN TIGER TOP:KARNALILODGE ↑10km』って書いてあったんだ!」

トラって、すごく縄張り意識つよくて、10km四方に一匹しかいないとかいうじゃん!

しかも、トラ見物ツアーで1週間森の中さまよっても、一匹も見られないっていうし。

「知るかよ、そんなこと! とにかくあれはトラだった! いいか、トラはニャーニャー鳴く! オレはトラの群れの中でテントを張ったのだぁ! しかも生きてそこを脱出した! 野生の肉食獣の恐怖に打ち勝ったのだぁ! オレは野獣など怖くない! 野獣王アキラだぁ!!!」

・・・・・・・・。

 

 

サイクリンガー明 VS 悪路

 

さて、おもいっきし期待はずれの野獣遭遇話でしたが、不幸の団体ツアーは、まだまだ彼に襲いかかります。

森の中を伸びる道をずんずん進んでいくと、彼の眼前に、奇妙な物体があらわれました。

それは、巨大な電信柱の先端から、ワイヤーを下に向かって扇状に伸ばしたような形をしていました。逆さにした『T』の字の、縦棒の先から横棒に向かって、何本も線を引いたような感じです。それが、前方の森の向こうにデカデカとそびえたっています。

ネパールの森にはとても似合いません。

彼は「いったいなんだろう!」と思いながら進みました。そしてついにそれの正体がわかったのです!

それは、立派な『橋』でした。

「こんな田舎に、これほど立派な建造物があるとは思わなかったゼ!」

橋のたもとには小さな集落があり、食堂もあったので、彼はそこで食事することにしました。

どうもここは、工事人のための集落らしいです。ヒマそうなおっさんが『おまえは日本人か!? この橋は日本の技術者が作ったんだ!』と説明してくれました。

さすが日本。やっぱカッコいいものを作る。

サイクリンガー明は、思わぬところで故郷の匂いをかぎ、『がんばるぜ!』と気合をいれて出発しました。

ところが!!

猛烈な悪路が彼に襲い掛かりました!

「道が道じゃない!!」

すさまじいダート! まるでモトクロスのコース!

線路をくぐる、歩行者用地下道のような急角度のアップダウンの連続!

そこに、地雷のようにうまっている、つけもの石のような丸石!

砂はパウダー状で、タイヤをとられコケる! タイヤが埋まって進めない! タイヤがすべって坂を上れない!

「これはホントに道かー!?」

EWH(イーストウェストハイウェイ。サイクリンガー明が走っている、ネパールいちの国道)の脇には、かなりマシな獣道があるのですが、またヘンなところに行ってしまいそうなので、怖くてそちらには行けません。

彼は、半泣きになりながら、その試練を乗り越え、なんとか道は舗装道路になりました。

しかし、その後も5kmくらいごとにダートがあらわれます。

ついには、道路が途切れ、小川が横断しているところまで出現しました。

「まさか、川をわたるとは思わなかったぜ。まぁ、くつもほとんど濡れないようなところだったがな。余裕余裕。

・・・・と思ったら、次は10メートルくらいの幅の川が出現。深さは20cmくらいで、バッグの下がちょっと濡れた。多少、流れが強かったが、川で遊んでた少年たちが手伝ってくれた。少年は5人いて、リーダーが5ルピー(約10円)くれ!と言ってきた。このクソガキどもー!と思ったが、まぁ、手伝ってくれたのは非常に助かったので、5ルピーやった。

やれやれ、まいったぜ!と思っていると、幅5メートルくらいの川が登場。くつを脱ぐのがめんどくさいので、そのまま突っ込む。

オレはゴアテックスの靴を履いてるんだが、実は、これは完全に濡れるのには弱い!ということがわかった!

ゴアテックスは、水滴は通さず、水蒸気のみ通すという夢の素材で、ゴアテックス製の服を着ていれば、雨もへっちゃら、汗もこもらずウハウハピー!という旅人必須の装備だ。

オレは、ゴアのシュラフカバー、カッパ、靴を持って旅している。

で、ゴアの靴だが・・・・いったん靴の中に水が入ってしまうと、防水効果のため、水が抜けない! 少量の水なら、体温で水蒸気になり、外に逃がすことができるが、完全に水が入ってしまうと、もうお手上げ!

30分で、フヤフヤにふやけた足の出来上がり!

かんべんしてくれよー!と思いながら進むと、今度は50cmくらいの深さの川。

このころになると、川出現の前兆がわかるようになってきた。

川の手前は道路が途切れ、少し未舗装地帯があるので、砂埃がすごい。

砂埃が前方に見えたら、川がある!というわけだ!

今度の川は深く、荷物が濡れる。なかなか進まない。

・・・・なんでオレはこんな目にあってんだろう・・・・・。

次は泥っぽい川。川はなんとか越えられたが、道路に戻れない。蟻地獄にはまった蟻の気分というところだろうか!

・・・・オレがなんか悪いことした? ねぇ!?

地元の少年が現れ、脱出を手伝ってくれる。1ルピーねだられる。うむ、コイツは1ルピー分の働きはしてくれた。

さて、しばらく進むと、またもや砂埃が見える。

またかよー!!!

しかも今度の川は幅30メートルはある!!

・・・・結局、今日は7本の川を越えた・・・・・。」

 

次回、放浪黙示録・サイクリンガーズU

 

温厚な村人が、突如邪悪な妖魔に変貌!!『邪神降臨・魔の祭礼』

 

乞う! 御期待!!!

 

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