9/16

 めちゃめちゃさむい。6:30に寒さで目覚めた。動き出そうにも寒くて動けない。気温はマイナス2℃だった。持っている装備がせいぜい3シーズン用なので、氷点下はつらい。
 なんとか動きだしのろのろと進む。
 相変わらず道がわかりずらいところがある。地図を見て悩んでいたところ、ロードレーサーに乗ったじいさんが話しかけてきた。退職後の趣味が自転車での体力づくりというところか。自転車もウェアもちゃんとしたのを使ってる。
 じいさんに道を聞くと、途中まで一緒だからついてこいという。
 じじいとはいえ、なかなかの脚力で、ぐいぐい進んでいく。上りでは荷物の量の差もあり引き離されてしまう。自転車道や妙な抜け道のようなところをちょこまかと走り、どんどん進む。このじじいなかなか走り込んでるな、という感じだ。
 じいさんと別れてしばらくすすむと、砂利道がはじまる。
 そして、前方に妙なものが見えてくる。どうやら牧場らしいが、へんな生き物がいる。

 へんな生き物の正体はダチョウだった。デカい。1メートル50センチは越えてるんじゃないだろうか。へぇーと思いじっと見ていると、二匹のダチョウがこっちに寄って来るではないか。とぼけた顔をして僕のほうを覗き込んでくる。
 こいつはおもろいと、カメラを出して写真を撮る。
 すると、遠くのほうからわらわらと別のダチョウが集まってくる。僕が観察するはずなのに、いつのまにかダチョウに観察されている!
 ダチョウというのは人なつっこい動物だったのか。しかしダチョウなんてどうするんだろうか。食べるのか? 卵を目玉焼きにして食いたい。

 砂利道をトロトロと進んでいると、後ろに妙な気配がする。ウォークマンをしていたので気付かなかったが、どうやら車がきているようだ。先に行かせようと道の脇で止まる。
 その車はパトカーだった。パトカーも止まり2人の警官が出てきた。
 一人は妙に偉そうな態度でムカつく。もしかしたらニセポリスかもしれない。
 どっしりかまえた年上のほうが実際には偉いらしい。若い方は洋画に出てくる態度ばかりでかい生意気な若刑事という感じだ。
 パスポートを見せろと言ってくる。あやしい。WHY?と聞いてもパスポートコントロールとしか言わない。英語が喋れないようだ。警官なら簡単な英会話くらいできるんじゃないか?と思う。
 しつこいので、パスポートを取りだし、渡さないようにしてページを開いてみせる。
 すると、思い切り突き飛ばされパスポートを奪われてしまう。これはヤバイ。ニセポリスに違いない!と思う。
 パスポートのぺージをパラパラとめくって見ているが、全然まともに見ている気配はない。各国のスタンプを眺めてるだけだ。返せ!と言っても返さないし、英語もまったく通じない。
 車に乗って逃げられないよう、そっとパトカーのドアの前に移動する。
 すると警官も動き、パトカーに乗り込もうとする。
 あわててパスポートを取り返そうとするが2人がかりで押さえ込んでくる。
 暴れてもみ合っているうちに、一人が懐に手を入れたので、撃たれる!と思いさっとホールドアップ。
 しかし取り出したのは手錠だった。あとで考えてみれば銃は腰だ。
 後ろ手に手錠をかけられてしまう。それでも暴れて「助けてくれー! 殺されるー!」と叫んだので、ゴロゴロ蹴り転がされてしまう。偉そうなほうの警官にうつぶせに押さえられる。動くたびに手錠がぎりぎりと食い込む。骨まで響く痛さだ。
 いよいよパスポートを奪われ逃げられてしまうかと思ったが、もう一人の警官はパトカーの中でゴソゴソしていて一向に逃げる気配はない。
 うつぶせはイヤだったので好きをついて立ち上がる。押さえ込まれることはなかったが、手錠を掴んで引っ張られたりする。手錠が食い込んで痛いし、めちゃめちゃむかついていたので、こんどはその場にあぐらをかいて座り込む。このあとどうなるんだろう……と心配な気持と、なるようになりやがれ! 殺すなら殺せ! でも指の一本でも食いちぎってやる! という複雑な気持ちで待つ。
 しばらくすると、先輩風の多少はまともな警官が、ちょっとだけすまなそうにパスポートを返してくれる。どうやら本物の警官だったようだ。
 生意気な警官は生意気なままで、おまえなんかイボ痔にでもなって悪化して死ね!と思う。
 気を取り直して進む。手錠のあとが痛い。血が出ている。破傷風の予防接種打ってなかったなぁ、と思う。まぁ死ぬときはどうせ死ぬからまぁいいやと思う。
 しばらく進むとパンク。猛烈についてない。
 パンクを修理してしばらく進んだところのスーパーで買い物。隣のガソリンスタンドで水をもらう。
 スタンドのオヤジが話しかけてきたので、進んできたルートのことなどを話すとたいそう驚く。これをもって行け!とミネラルウォーターをくれる。正直言って、ヨーロッパでは水道水が普通にのめるのであんまりありがたくなかったが、今日は悪いことが続いたのでこういう親切がすごくうれしい。
 そんな感じでスイス国境に到着。ライン川を渡ってスイス入国。
 暗くなったところでバス停が見つかったのでそこで寝た。

 

9/17

 スーパーで買い物。噂通り高い。ドイツの1.2〜1.5倍の値段だ。おそろしい。
 川沿いの道を走る。景色がとてもきれい。でかい山々と小綺麗な町並みが続く。

 野宿地を探すがちっともいいところが見つからない。町に入ってしまい、さらに野宿できそうなところがなくなる。
 なんとか町を抜けると、今度は帰りたくなりような猛烈なのぼり。
 かんべんしてくれ……と思っていたところ、現地人のおっさんが通りかかったので、このあたりに公園がないかと聞いてみる。
 すると、すぐちかくにあるではないか。
 水が出て、トイレもあり、テーブルと屋根のある休憩所もある。椅子に座り、テーブルの上でめしを作って食べていると、なんとなくリッチな旅をしている気分になる。

 

9/18

 朝からうんざりするようなのぼり。しばらくのぼっていると、少しひらけた場所が現れる。旅行者が景色を眺めるポイントらしい。なかなかの絶景だ。
 しばらくそこで休憩していると一台のバスがやってきた。出てきたのは日本人のおばさんたち。
 数人が僕のまわりにキャーキャー群がってきて、一緒に写真を撮ってくれ、とか言ってくる。家のほうに写真を送るので住所を教えてくれと言う。西ヨーロッパで一度家に連絡しておこうと思ったが、これで手間がはぶけた。国際電話も高いのだ。2〜3分で100円くらいか。

 いよいよ本格的にアルプスに入った。ひーひー言いながらのぼる。老夫婦が運転するキャンピングカーをよく見かける。ヨーロッパの年寄りたちののんびり旅行か。
 道の脇で休憩していると、ドイツ人カップルのサイクリストが登場。彼らは地図で×がついてる道を進むらしい。林道みたいなもんか。ごついMTBなので大丈夫なんだろう。カップルはじゃあお先に、とぐんぐんのぼっていく。
 しばらくのぼると道が下りになり、1時間半かけてのぼった高さを10分でかけおりる。
 大きめの町が現れる。
 スーパーを探しながら進んでいると、公園でさっきのカップルがめしを食っていた。おまえも食わないか?と誘われたので、一緒に昼飯。コーヒーをもらう。ちゃんと濾紙でこしてコーヒーをいれている。
 ふと脇をみると、シャーロックホームズの像があった。どうやらこの町は、ホームズがモリアーティ教授と戦ったなんとかの滝があるらしい。
 像にはいろんな国の言葉による解説があったが、ちゃんと日本語のものもあった。日本人には熱心なホームズファンが多く、よく訪れるのだという。
 しかしその解説文の日本語というのがものすごい直訳で笑えてしまう。どうせなら熱心な日本のホームズファンに文面を考えてもらえばいいのに。
 とりあえず、今のところはアルプスと言ってもヨーロッパの他の峠と変わるところはない。期待するほどのものでもなかった。
 なおも続く峠道をウォークマンをガンガンに聴きながらのぼっていく。HELLOWEENのI'm ALIVEあたりを聴くとかなりパワーが出る。あまりのカッコよさに、熱いのに鳥肌がたってしまう!

 

9/19

 冷え込むかと思ったがそれほどでもなかった。テント内は5℃。
 のぼりは相変わらずうんざりするほどきつく、いまいちパワーが出ないので休憩を入れながらのんびりすすむ。
 すると、スイス人サイクリストが登場。サス付きMTBに乗っている。今朝の5時にルツェルンを出発し、300キロ先のSIONまでいくのだそうだ。こいつ正気か。そして明日帰るという。二日で600キロ。おそるべし。ロードレーサーでもきついんじゃないか。
 この先にカフェがあるからそこで話そうと言ってくる。何度も来ているのだろうか。
 相手はゆっくり走っているが、こっちは全力だ。時折話しかけてくるけどとても返事ができない。200メートルおきくらいに休憩を入れたいのに、それもできない。泣きそうになりながらカフェを目指す。
 カフェにつき、「オレは金がないから水飲んで自分のパンを食う」とみみっちいことを言ったら、男は笑いながらおごってやるよ、と言う。なんとも情けない。
 男と話しているうちに店のおばちゃんがやってきて、三人で会話をする。おばちゃんはコーヒーをおごってくれた。
 おばちゃんは英語を話せず、僕も男も片言なので、なんとも奇妙な会話。しかしそれなりに楽しく話が進む。
 カフェを出て男と別れる。男はえらいスピードで上っていく。ロボなんじゃなかろうか。
 僕もノロノロと進み、標高2120メートルの峠に到着。なかなかの絶景。湖がある。

 峠を過ぎると一気に1770メートル地点まで下る。
 そして目の前には悪夢のような九十九折りが立ちはだかる。泣きそうになりながらのぼる。

 この地点から、写真右下まで降り、左上の道まで上っていく。嘘だと言ってほしい。

 先ほどの写真の右下地点からの光景。

 2430メートル。ようやくアルプスっぽい雪山(写真中央の山)が見えた。

しばらく休んでると、キャンピングカーで旅行中の老夫婦に話しかけられる。写真を撮られたりして照れくさい。おかしをもらう。チョコは嬉しい。糖分が多いので、つかれた時に食べると一時的にパワーが出る。

 

 今度は強烈な下り。小刻みにヘアピンカーブが続くのでスピードがだせない。ブレーキを握るのがつかれるので、下りだというのに途中で休憩を入れたりする。
 結局1530メートルまで下る。一気に標高1キロ近く下ったわけだ。
 下りきったところには小さな村があり、スーパーもあった。食料を買う。
 缶詰やパスタは下界よりもほんの少し高いだけだったが、パンが恐ろしく高い。トルコで30円でかえたようなのが250円もする。
 道の脇に河原があったのでそこにテントを張って寝る。

 

9/20

 二時半ころ寒くて目覚める。ものすごく寒い。地面から冷気が伝わる……というか、体温が地面に吸われていく。
 バッグから荷物を片っ端から出し。寝袋の下に並べて熱が伝わらないようにする。シュラフの中で体を丸めて表面積を減らし、体温がにげるのを防ぐ。
 なんとか眠ることができ、起きたのは8時半。
 しかし寒くて動けない。谷間なので日がささない。
 凍えながらテントを出ると、あたり一面霜が降りている。テントのフライシートも凍っている。
 凍えていても仕方ないので出発する。急坂をのぼっているとすぐに体が温まってくる。
 なんとか峠の頂上にたどり着く。ここを下ればイタリアだ。
 すると一人のサイクリストが現れた。まるでバイキングのような風貌の巨漢の老人だ。

 フィンランドから3週間かけてやってきたらしい。年齢は60ちょっと。ヨーロッパのじじいはパワフルなやつが多いなぁ。
 下りに入ると道が広くなり走りやすい。しかし、横を車がものすごいスピードで走っていく。いつのまにか自動車専用道路に入っていたらしい。脇道があったのであわててそちらに行く。しかし、今度は石畳。デコボコして非常に走りにくい。
 どんどん下って下界に降りる。気温が上がっていくのがうれしい。
 サッカーグラウンドがあったのでテントを張ろうと思い行ってみる。すると管理人小屋があり人がいた。こりゃまずいと思いつつもテント張らせろと頼んでみる。
 管理人は隅のほうならいいとしぶしぶ承諾してくれた。
 テントを張って寝る準備をしていると、なにやらグラウンドに車が集まってきた。なんかはじまるらしい。いやだなぁと思いながら日記をつける。
 しばらくすると、テントに男が尋ねてきた。出てけと言われるんじゃないかと気が重くなる。
 男は、ここでなにしてるんだ?と聞くので、寝る、と答える。
 すると、腹減ってないか? 飯食わせてやるから来いという。これはラッキーだ。
 管理人室の隣の部屋では15人ほどの男女が集まりパーティをしていた。英語を話せる人がいなかったのでちっとも石の疎通ができなかったが、とりあえず身振りで旅のことを説明するとみんな感心していた。そしてめしをたらふく食わせてくれたうえ、サラミやチーズを「持ってけ!」とたくさんくれた。うれしい。

 

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