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よく眠れた。天気は快晴。ウォークマンにRAGEのテープをセットして出発。
ロックに感動して元気を出すとか、詩に影響されなにかをやるとかいうのはすごくカッコ悪いことだとわかっているけれど、そのおかげでここまで来ることができたと思う。子供っぽい行動だけど、身も心も大人だったら、ここまで来ることはできない。
正直言って、この旅に出るのは怖くて仕方なかった。もう二度と日本に帰れないかもしれない、どこか誰も知らないところで死んでしまうかもしれないと、勇気が出ずになかなか出発できなかった。それでも、好きなヘヴィメタルを聴くとやる気が湧いてきた。
RAGEというバンドにRAW CARESSという曲がある。安定した環境で物足りなさを感じつつ悶々と暮らしている男が、若く力強かったころのことを思い出し、再びなにかに挑戦するという歌だ。この曲を聴くと元気が出る。
Peter Wagner:Raw Caress
今度こそ風が俺を前に押し出してくれる
重苦しい病んだ状況にいるのはもううんざり
心の安まらぬ老いた船乗りのように
自由で力強い意志を持っていたころの幻影に苛まされている
そして、暗闇に包まれ成長が止まったとき 終焉が近付き
自分で作り上げた安全な牢獄をあとにし
心を引き裂き荒れ狂う嵐に身を投じ……
苦痛と悲惨な体験に傷つけられた俺は
またここから出発する
今こそ冷たい現実に向き合うのだ
チャンスは今この手の中に
俺にとって人生とは 素肌を愛撫されること
そして より強靱な骨組みを作ろうとした途端
再びすべてを破壊されてしまう
いくら悲劇的な運命でも
まともな結末があるようだ
手を伸ばせ 悠久なる時の流れは永遠に続く
見上げるがいい すぐに夜明けが訪れ再び陸地が見えるだろう
苦痛と悲惨な体験に傷つけられた俺は
またここから出発する
今こそ冷たい現実に向き合うのだ
チャンスは今この手の中に
俺にとって人生とは 素肌を愛撫されること
昼頃、海が見えた。大西洋だ。海を見るのは久しぶり。イスタンブール以来だ。よく晴れているので反射光がまぶしい。
山が沈んだような地形で、海岸近くはアップダウンがはげしい。昼すこし過ぎロカ岬に着くと思ったが、なかなかたどり着けない。
結局、4時にロカ岬に到着。出発からちょうど9ヶ月。
人の話ではたいしたことない景色ということだったけど、そこそこかっこいい眺め。いちおうユーラシア大陸最西端という観光地なので、人がけっこう多い。日本人もいる。アルプスだとか極端な場所ではないので自転車で来ているのを見てもあまり驚いてるようすはない。
まぁ、普通に旅行していればロカ岬なんてただの岬だろう。
とにかく到着した。ここより先にもう道はない。ユーラシア大陸の自転車横断が終了した。(正確には横断とは言えないけど)
なにかすごい啓示でも訪れるかと思ったが、そういうことはなかった。
感極まって泣けてくるかとも思ったが、それもない。
今日はリスボンまで行くつもりだったが、もう夕方なので岬にテントを張って寝ることにした。
土産物屋に行き「ロカ岬証明書」みたいなものを買う。こんな紙っきれが600円かよ、と思ったが、まぁ目的地なんだからいいかと思うことにする。
さすがに岬だけあってなかなか風が強い。岬に沿って張り巡らせてある腰くらいの高さの石の塀に腰かけ、パンと桃缶を食う。めしはどこで食ってもうまい。
このまま大西洋に沈む夕日でも眺め続けるか……と、ボーっとしながら海を見る。
すると、岬に続く道を2人の小汚いサイクリストが突っ走ってくる。
あの小汚さはどう見ても日本人だ。まさか旅の最後に日本人サイクリストと出会うとは思わなかった。
彼らと挨拶をし、名乗ろうとする。すると、一人が「ちょっと待って! 名前をあてさせてください!」とわけのわからないことを言う。
「あなた、サイクリンガー明でしょう!?」
えーっ!? なんで知ってるの!?
彼らは、これまで僕があちこちの宿で残していた情報を見ていたらしい。僕のほうが何週間か先行していたが、彼らはトルコからギリシャ〜イタリアと船を使いながらきたのでちょうどここで差がゼロになったようだ。「もしかしたらサイクリンガー明と会うかもね」などと冗談で言っていたらしいが、ほんとに遭遇してしまいビックリという様子だった。
今日は3人で岬で野宿ということになった。9ヶ月旅してはじめての他のサイクリストとの野宿だ。
男の一人はイワサワさんといい、自衛隊出身の22歳。この若さでレンジャー部隊の曹長だったそうだ。知り合いのヤングサンデーの編集者に「おまえ、歩いてユーラシア大陸横断すればギネスに載るぞ!」とそそのかされたものの、中国を2〜3週間歩いて「こりゃやっとれん」とギネスはあきらめたそうだ。そして人民自転車を購入して旅を続け、チベットで金がないというオランダ人サイクリストからMTBと装備一式を丸ごと購入したらしい。
もう一人はヨコタさんという多少落ち着いた感じの26歳の青年。彼は香港から飛行機を使ったりして東南アジアをまわった後ネパールに行き、ヒマラヤでイワサワさんと出会い以後一緒に旅を続けたそうだ。

記念撮影会が始まる。ロカ岬に沈む夕日をバックに、アホみたいにカッコつけた写真を撮ったりする。
なんて楽しいんだろう。旅の最後にこんなことが起きるなんて。
運命だとか奇跡だとかは信じないけれど、今日ばかりはこの偶然に感謝したくなる。これまで出会ったサイクリスト達が、別れの際に残した「GOOD
LUCK」という言葉が、今日実ったという感じだ。
彼らは僕と同じものを見て、同じ道を走ってきた。僕がどれだけ苦労したか、どれだけ楽しんだかが、彼らには言葉を使わずともわかるのだ。
みんなでめしを作る。僕はいつも通りのごった煮スパゲティ。彼らは肉入りカレー。
僕のスパゲティは「うまい!」と喜んでもらえた。彼らのカレーは怪しげなペーストを使い(分量がわからず適当)いいかげんに作ったので、正直かなり悲惨な味だった……。
彼らはビールやシャンパンを持っていたので、わけてもらって乾杯。旅の話をしながら盛り上がる。まったく、こんなことになるなんて信じられない。
その後、ヨコタさんはすぐに寝てしまったので、イワサワさんと夜遅くまで話し続ける。

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