核戦争から数千年後の未来世界で、地底人に妻をさらわれた男が、テレパシーで会話できる狼とともに地底都市を探検する話です。
ダンテの「地獄篇」をベースにしているそうですが、僕は読んだことないのでどの程度の影響があるかわかりません。
テンポ良く話が進み、作中のちょっとしたキーワードや小道具類がしっかりと伏線になっていたりと、娯楽小説としての完成度は非常に高いです。
サービス満点な物語展開から、ハリウッド映画的な明るいハッピーエンドが待っているのかな、と思いきや、寂寥感の漂うしんみりとした結末になっていて驚きました。
なかなかのおすすめ作品なんですが、入手困難です。(と思ったけどamazonではけっこう安い)
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かつてこの作者の中篇「現実創造」にとてつもない衝撃を受け、ぜひ長編作品を読みたいと思っていました。
未訳の長編「The Paradox Men」はこれぞ究極のワイドスクリーンバロックと称されるほどの傑作らしく、ずっと翻訳を待ち望んでいました。
しかし2013年現在でも翻訳されていない……。(追記:結局原書で読んだ。すごくおもしろかったのできみも読もう)
その上かなりの寡作のため話題にもなりにくく、幻の作家、知る人ぞ知る作家という扱いになっています。(作者は2005年に亡くなっています)
そんな作者の唯一の邦訳長編が本作です。
購入したのは二十年近く前になりますが、あらすじ読む限りではいまいち地味な感じだったのでずっと放置しており、今回ようやく読了しました。
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空に浮かぶ謎の発光体「神の目」、蒸気を噴出する土地「スピューム」、修道士たちの使う超能力「渦力」、地底人のリーダー「プレジデント」など、さまざまな小道具が登場し、話が進むにつれそれらの正体が開かされたり関連性が見つかったりするのがおもしろいです。
主人公と雌狼がテレパシーで接続され、一緒に冒険していくというのも、犬好きにはたまらないかもしれません。
主人公の忠実な家来になったり友情の絆で結ばれたりするのではなく、あくまでも一定の距離を保っているというのがいい感じでした。
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ものすごい叙情性の漂う結末もよかったです。
けっこう好みが分かれそうではありますが、日本人好みの終わり方といえるのではないでしょうか。
この作者、諸行無常とかわびさびの精神が理解できるにちがいない……。
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良作ではあるんですが「寡作作家の唯一の翻訳長編」と考えるとかなり物足りないと言わざるをえません。
作品の出来はいいのにモヤモヤ感が残ってしまったのでした。