服が人を支配する、スペースオペラ的世界観のSF小説です。
ワイドスクリーンバロックと言われたりもしますが、これは違うだろう……。
ベイリーの作品には東洋的・日本的な要素が入ることがあり、今作では「ヤクザ坊主」がロシア人と宇宙戦争をしています。
久しぶりに再読したけど、やっぱり変な話だった……。
宇宙のあちこちに人類が広がりかなりの時代が経った世界が舞台です。
主人公たちが属する「ジアード」は、「カエアン」という文化圏と対立しており、ジアード側はカエアンとの交流を厳しく統制しています。
しかしそれでもカエアン製の服が密輸されるのでした。なぜなら、カエアン製の服を着た者は本人が持つ魅力を最大限引き出され、ラッキー人生を送れるようになるのです。
「服とは何か、自己の身体イメージとは何か」みたいな話が出てきたり、カエアン世界に乗り込んだ人たちが意外にも歓迎を受けて楽しく過ごしたり、なんかよくわからない感じの物語です。
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解説では、すごいすごい、SFファンならこのおもしろさがわかるはず!みたいなこと力説してるけど、これはSFファンでもけっこう好みが分かれるんじゃないか……。
しかしベイリーらしいといえばこの上なくベイリーらしく、代表作といってもいいくらいの作品なのかもしれない。
奇想やナンセンス、風刺的な面で見ると、RAラファティの短編と似たような印象があります。
ラファティが長編スペースオペラを書くとこんな感じになりそう。
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本作は、短編をいくつも繋げたような感じといいましょうか。
個々のアイデアは面白いんだけど、全体のストーリーとしてはどうなんだろうなぁと思いました。
あと感情移入できるようなヒーロー・ヒロインがおらず、出てくるのは奇人変人ばかりで「こいつはどういう酷い目にあうんだろうワクワク」みたいな楽しみかたになってしまいました。
アイデアSFとしてはおもしろいけどストーリー的にはなんとも言えない感じで、他人に勧めにくい作品になっていると思います。
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奇想が売りの作家だけに、フラショナールスーツの正体についてもっとしつこいくらい詳しい説明がほしかったです。
生態とか歴史とかを文化とかをじっくり描写してほしかった。
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ベイリーを語る上では外せない作品ではあるものの、素人には全然お勧めできない怪作でした。
最近「キルラキル」というアニメで服型生命体が出てきたそうで(アニメはまったく見ないからよく知らない)、その影響で本作が微妙に話題になっているようです。
しかしベイリーらしい作品ではあっても、アニメファンが読んで素直に楽しめるかといえばちょっと微妙です。
本作はベイリー作品に慣れてからのほうが楽しめると思います。
ベイリーに興味のある人は、とりあえず最初は「永劫回帰」か「スターウィルス」にしておきましょう。
この二作は宇宙をさすらうかっこいい感じの無頼漢が主人公で、わかりやすいストーリーになっています。そのうえ派手な奇想が盛り込まれていて、SF入門用にも向いています。たぶん。