倉知淳の「星降り山荘の殺人」の元ネタということで読んでみました。再読。
超ものぐさでやる気がまったくない探偵が活躍?する推理小説です。
章の最初に四行ほどのあらすじがついています。
ここの記述には嘘やひっかけはなく、推理のヒントになる……という体裁です。
終盤で「ここで手掛かりは出つくした。読者はこの章のおわりで論理的に殺人犯人を指摘できるはずだ」と、読者への挑戦状的なものが出てきます。
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仕事をしたくない主人公が、父親から「一年だけでいいから働け」と言われ、金を出してもらって心霊探偵の事務所を開きます。
こんな胡散臭いところには誰も来ないだろうという魂胆でしたが、意に反して依頼者が現れ、幽霊騒動のあった旧家に向かうことになります。
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1972年の作品です。
新本格以降の、読者の裏をかくことに注力した本格ものに慣れてしまうと、正直物足りないです。
よくも悪くもフェアプレイの正統派、古典的本格推理小説になっています。
僕なんかはアンフェアの邪道作品ほどワクワクしてしまうので、かなり物足りなく思いました。
キャラが面白く掛け合いが良かったので、もっと物語としての盛り上がりを強調してほしいと思ったものの、作者としてはメロドラマや情緒性は排して論理を重視したいのだそうです。
たぶんキャラで売るというのもあまりやりたくないのだろう。
事件の設定的には横溝正史なおどろおどろしい展開になりそうなものの、実際は軽いノリで話が進んでいきます。
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逆さに張られた名刺から推理を展開していく部分は、さすがロジック重視というだけはある鮮やかさでした。
一方、確かにフェアで正統派ではあるものの、「こういう解決を見たかったんじゃない……」という部分もなきにしもあらず。
不可解な謎をすごい発想で解決するのではなく、不可解な謎を小技で少しずつ解決していくという感じです。常識的なところに落ち着いたというか……。
まあこれは僕が新本格以降の推理小説のファンだからこう思うわけで、人によってはこのほうが地に足がついた感じで気に入るでしょう。好みの問題が大きく、欠点というわけではありません。
「トリックよりもロジック」を標榜しているだけあって、その通りの作品となっています。
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悪くはないけどものすごく普通です。
ほんと論理面はよくできていて推理が進んでいく様は面白いんだけど、ばらばらに散らばっているものを整理整頓をしていく感じなので、驚きは少ない。
推理小説に興味を持ち始めたころに読みたかった一冊でした。