連作短編集という体裁の長編推理小説です。再読。
「日常の謎」系統の話なんですが、謎の裏側がけっこうドロドロしています。
後味の悪い話が苦手な人は要注意です。
「相手の話を聞くだけで、話し手が勝手に推理して解決する」という超能力者?が出てきます。
かなりわけがわからない……。
その男の前に立つとなんとなく饒舌になり、心の奥に引っかかっていたものをべらべらとしゃべり出し、しゃべった後で本人が「あれはそういうことだったのか!?」と気づくわけです。
能力者の男は事件があったことにすら気付かず、世間話をしたとしか思っていません。
そんな話面白いの?と思う方もいよう。
推理小説の醍醐味は、探偵役がかっこよく事件を解決する部分にあるとも言える。
確かにこれだけだと、相当能力者のキャラが立ってないと楽しめないでしょう。
それなのにこの能力者は、温和なだけが取り柄のぬぼっとした大男……。セリフも相槌程度しかない。
しかし本作は短編集の形を取った長編なので、本編の謎で引っ張ってくれます。
別の話に出てきた人物がこっちの話でもちょろっと登場し、それが積み重なって最後には大きな事件の解決となる、という形です。
さらに、能力者がなぜ能力を得たかの謎も関わってくる。
.
話自体は軽快に進んでいき読みやすいです。
個々の事件のアイデアは小粒ではありますが、よくもまぁこれだけ考え突くわと大量に投入されます。
謎の提示と解決の連続で話が進んでいく。
ひとつのエピソードで複数の事件がでてきたりもします。
.
技巧的でおもしろい作品ですが、短編集という形もあってとにかく登場人物が多いです。
20人以上のキャラがあちこちの話に散らばって絡み合っているので、気合を入れて読まないと誰が誰だかわからない。
名前もまともに読めないものばかり……。
回想を中心に話が進んでいくので、時系列も混乱します。
また、解説では「これこそ西澤保彦のSFマインドが出た作品だ!」とか言ってますが、正直SF要素無くても全然成り立つ話です。
むしろないほうがいいような……。
SF的なアイデアとしてもおもしろいものでもなく、テーマのために無理矢理捻じ込んだ感じがある。
「交換相手」のことが気になる……。絶対結末に大きく関わると思っていたよ……。
.
「短編集なので毎日ちょっとずつ読んでいこう」と思ってちまちま読み進めると、メインの事件がサッパリわけがわからなくなると思います。
長編だと思って気合を入れて挑みましょう。