ジャックヴァンスのファンタジー連作短編集です。
1950年の作品。
長いこと入手困難だったのですが、kindleでひっそりと売ってました。しかもわりと安い。
これはちょっとビックリの掘り出し物なのでSF・ファンタジーファンは要チェックですよ。
グーテンベルグ21という謎の出版社が配信しています。
他にもレアなものからメジャーなものまで古典SFをいろいろと出している。
久保書店やサンリオSFなど消えた出版社の本を取り扱ってるっぽいものの、早川の絶版本なども出していて権利関係がどうなっているのか謎です。
本書のオリジナルは久保書店QTブックスから出ていたようです。
.
太陽が老い始めた遠未来の地球を舞台にしています。
魔法が使われている一方で、科学や数学も「太古の昔に失われた強力な魔術」という扱いなのがおもしろいです。
文明の衰退が進んでいるため、かつては1000以上あった魔法も本作の時代では100程度しか伝わっていません。
魔法を使用するためには呪文をおぼえておく必要があるのですが、人間の頭では同時に5つほどしか記憶できません。
冒険に行く際には必要な呪文をよく吟味して選ぶ必要があります。
このあたりの設定はD&Dなどに流用されたそうです。
つまりRPGの呪文システムの基礎を作ったと言える。
.
なぜか第一話と二話が入れ替わっています。
知らずに読むとかなり混乱します。
時系列をさかのぼっていく形式の短編集かと思ったもののそうではなく、何の意味もなく入れ替わってるだけのようです。
.
ジャックヴァンスらしい異世界描写がおもしろい一方、物語的には割と地味なものが多いです。
雰囲気を楽しむタイプの作品集と言いましょうか。
しかし後ろの二作「夢の冒険者ウランドール」と「スフェールの求道者ガイアル」はSF要素も強い冒険譚となっており物語的にもおもしろいです。
特に夢の冒険者ウランドールはヴァンスっぽい異文化描写が強く、派手なアクションシーンもあり、完成度が高い。
.
SFベースのファンタジー世界やゲーム的な魔法の設定など今となっては当たり前のものですが、1950年にこの世界観を確立させていたのはすばらしいです。
これはファンタジーファンも見逃せない一作ですよ……。