短編作家として有名なフレドリックブラウンのSF長編です。
1961年度の作品。
母星を追放され地球に島流しにされた宇宙生物が、なんとか帰還しようと奮闘する物語です。
この宇宙生物は他の生物に憑依し運動から記憶まで支配することができ、この能力を使って科学知識のある人間を操り帰還装置を製作しようと企みます。
とはいえこの宇宙生物の能力にはいろいろと制約があり
・宇宙生物本体の数メートル以内で眠っている生物にしか憑依できない。
・一度憑依したらその生物が死ぬまで同化したまま。
・本体は自力ではほとんど移動できない。頭・手足・尻尾のない亀のような形状をしている。
・本体は数ヶ月に一度栄養スープに浸かって養分を補給しなければならない。
・本体が破壊されたら当然死ぬ。
となっています。
山奥にいる状態ならば、まず眠っている野犬に憑依し、本体をくわえて人里近くまで降り、民家の近くに本体を隠し、野犬を自殺させる、といった行動を取らねばなりません。
もしこの野犬が怪我をしたり捕まったりして自殺できない状況になったら、寿命がくるまで待つ必要があります。
その間に本体が見つかって破壊されたり飢えたりすると死んでしまいます。
宇宙生物はアメリカの片田舎に漂着したためそこから侵略を開始するのですが、当初は地球についての知識がなかったので人間や動物を不自然な方法で自殺させてしまいます。
偶然通りかかったMIT物理学教授がそれを不審に思い調査を開始し、宇宙生物との知略戦が繰り広げられていきます。
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短編が得意な作家だけあって場面ごとに目的やテーマがはっきりと決められており、テンポよく読み進められます。
昨今のSFとはちがい読むのに特殊な科学知識も必要なく、宇宙生物と教授の戦いを能力バトルまんがのようなノリで楽しめます。
宇宙生物視点と客観視点(人間側の視点)が交互に現れ、宇宙生物パートでは倒叙ものの推理小説のような雰囲気もあります。
遊星からの物体Xやエイリアンをクリーチャー側の立場で書いたような作品とも言えます。
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とまぁこんな感じで気楽に読めて面白いものの、教授……というか助手の超推理がちょっと強引すぎる気もします。
このあたりもう少し屁理屈ロジックを駆使してほしかった。助手の超推理のところは重要な部分だと思うのですよ。
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低予算で映画化してもおもしろそうな作品でした。
ラストなんて地味かつ激しい戦いが繰り広げられるので、演出さえうまければかなり盛り上がりそう。
やっぱ50~60年代のSFはいいなぁと思える一作でした。