ヴァン・ヴォクト1952年の作品です。
購入当時は「地味すぎてつまんねぇ……」という感想でしたが、今回の再読ではそこそこ楽しめました。
最初読んだときは、非Aとか武器店二部作みたいなのを期待してたんだな……。
かなり整合性の取れた内容になっていて「わけがわからん」という部分は少ないです。
しかし、滅茶苦茶な展開がこの作家の魅力でもあるので、小説としてまともなほど物足りなく感じてしまうのでした。
けっこう微妙な作品なのに2006年に新装版がでていて驚きました。
僕が買ったのも95年の第14刷で、当時読み終えてから「重版するほどの作品なのかな」と思ったのでした。(個人的にはヴォクトの作品を読めるだけでもすごくありがたかったんだけど)
ひそかに人気あるのかな……。
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星図作成のための探検をしていた地球帝国の宇宙戦艦が、地球帝国から隠れるようにして繁栄していた文明「五十の太陽」と接触し、なんとか併合させようとするのが物語の幹の部分になります。
「五十の太陽」内部にも、デリアン、非デリアン、混成人という三つの勢力があり、混成人と他の勢力は対立しています。
主人公のピーター・モルトビーは「五十の太陽」の大佐であり、その正体は混成人の世襲的指導者でもある人物。
彼は戦争を回避するため、混成人の持つ「二重思考能力」を駆使して奔走するのでした。
デリアンは「デリアン型ロボット」と呼ばれていますが、若干特殊ではあるものの普通の人間です。
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複数の勢力の間で板ばさみになりつつも、なんとか最善の道を探すというのが、いかにもヴォクト作品らしい設定です。
基本的に、地球側も五十の太陽側も積極的に戦争を起こす気はなく、相手の出方を伺う描写が大半なので、アクション的な緊張感は薄いです。
また、サブ主人公として、「地球戦艦の大艦長、高貴なロール家の令嬢グロリア・セシリー」が設定されています。
モルトビーとのラブロマンス要素なんかもあります。
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物語の中盤までは露骨な悪役というのがおらず、地球側・五十の太陽側、どちらに転んでも状況はさほど悪くなりそうにないので、主人公の奮闘に反していまいち面白みがありませんでした。
終盤になってようやく悪役が活動を開始し、緊張感が生まれます。
ただ、この悪役、序盤に登場したときにけっこう小者感が漂っていたので、もうちょっと敵ボスとしての貫禄が欲しかったところです。
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ヴォクト作品の常として、主人公はよくわからない理論によって超能力を発揮します。しかし本作では若干しょぼい能力で残念でした。
「デリアン・非デリアンの二つの心で、二重思考能力を発揮!」という設定を見ると、いかにもヴォクト的なハッタリが効いていてわくわくするものの、実際は全然「二重思考能力」じゃなかったりします。心理攻撃に対する抵抗力が強いというだけ……。
あと強力な暗示能力なんかも持っています。しかしどんな理屈なのかは納得いく説明はされていません。
有能ぶってる割にはマヌケというか、いまいちな主人公でした。
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敵ボスの奥の手作戦がかなり大胆なんですが「何なのそれ? 聞いてないよ?」という無茶すぎる仕掛けなのが残念でした。なんらかの伏線を張っておかないとダメだろう……。
そして、主人公が敵ボスを倒す手段も、アイデアは面白いものの、話の筋からすると唐突かつ説明不足過ぎて困惑してしまいました。
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ヴォクト作品にしては割とまともなんですが、そのぶん小さくまとまっていて印象の薄い作品でした。
これ読むくらいなら、前回紹介した「宇宙製造者」のほうが狂っていておもしろいかも。