異郷冒険ものを得意とする作家の、ファンタジーっぽいSF作品です。
はるか未来、宇宙進出を果たした人類も文明圏が崩壊してしまい、舞台となる星では科学技術も衰退し中世的な世界になっています。
人口もそれほど多くはなく、山がちな地形の影響で勢力もなかなか広がりません。
そんな世界で、品種改良された巨大なトカゲを使って二大勢力が領土争いを繰り広げています。
と、こんな基本設定で異世界での合戦ファンタジーが展開されるのかと思いきや、突然空からトカゲ型異星人が攻めてきて三つ巴の戦いに、さらに「波羅門」と呼ばれる謎の人類種族まで暗躍しはじめるのでした。
こう書くと古臭くて無茶な設定のC級SFっぽく見えるかもしれませんが、独特の描写で綴られる物語はおとぎ話的で、50~60年代スペースオペラとは一味違う印象です。
トカゲ型異星人がUFOで飛来してレーザー光線で攻撃してくるというダサさが、逆におとぎ話的雰囲気に合っている。
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ヴァンスの作品は、価値観の違いからくる不条理ともいえる状況が魅力の一つだと思います。
本書にもそれは強く現れており、トカゲ人や謎の人類種族「バラモン」との対話シーンが印象的です。
言葉は通じるのに意志の疎通ができないもどかしさがおもしろい。
RAラファティの短編やファーストコンタクトものが好きな人などは気に入りそう。
寂れた中世世界での戦闘描写を基本としながら、背景の壮大な設定をちらちらと垣間見せる手法も見事です。
これはぜひとも続編が読みたい。なぜシリーズ化しなかったんだろう……。
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なかなか思い切った翻訳がされていて、竜の種類ごとに「阿修羅」「金剛」「羅刹」など仰々しい呼び名が付けられています。
これはこれでハッタリが利いていていいものの、ヴァンスといえば奇怪な造語が売りでもあるので、解説あたりに原語の綴りも記してほしかったところです。
※こちらのブログで原書での表記が紹介されていました。
羅刹:Termagant、一角竜:Long-horned Murderer、韋駄天:Striding Murderer、青面夜叉:Blue Horror、阿修羅:Fiend、金剛:Ponderous Jugger
あれ、割と普通だぞ……。
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異星人描写こそ古臭いものの、作風的にそれが気にならないため、今読んでも問題なく楽しめると思います。
SF的に難解な部分はほとんどなく、それでいてしっかりとしたSF設定を感じさせる展開は、SF初心者にぴったりだと思います。
おすすめの一作です。