赤道円周12万kmの巨大惑星(地球は4万km)を舞台に、飛行機や鉄道などの乗り物を使わずに半周6万kmの旅をするという冒険小説です。
この惑星には無政府主義者達や宗教団体が集まり、各地で自治国家や部族を形成しています。
惑星には金属元素が少ないため、文明もそれほど発達していません。
部外者を嫌う集団や原始退行した部族も多いため、長距離の旅は非常に危険です。
こんな世界に不時着した主人公と一行は、惑星の反対側にある地球直轄地を目指して旅をするのでした。
しかも、一行の中には……敵のスパイが紛れ込んでいる!?
ダンシモンズも影響を公言している、ハイペリオンシリーズの元ネタ的作品です。
SFというより異世界冒険小説です。さらに推理小説のような「そうだったのか!」要素もあります。
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重要そうな人物があっさり死んだり、グロテスクな描写があったりと、なかなかハードな内容です。
過酷な冒険の中で、仲間はひとりまたひとりと倒れていき、だんだん心細くなっていく。
一方、恐ろしげな展開を匂わせてユーモラスな結末になったりもするので気が抜けない。
終盤では、ファンタジー的な要素が出てきたかと思いきや、論理的な種明かしとともにきっちりと話をまとめ、作者の手腕を見せ付けてくれます。
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非常におもしろい作品なんですが、舞台の巨大さと比べて文章の量が少ないのが残念でした。
数冊のシリーズにしてもいいくらいなのに、日本版で三百ページに満たないこじんまりとした作品ですよ。
そのせいで、六万キロの旅を謳ってるのに「そんだけしか進んでないのかよ!」というところで物語が急展開し終了してしまいます。
珍世界を書くのは大得意という作者なので五冊でも十冊でも続けられそうなんですが、まぁ当時のSF出版事情から、大長編は求められてないなどの理由があったのでしょう。
しかしせめて上下分冊くらいにして、奇妙な部族の話をもう3つくらい見たかった。
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SF的な奇想天外さは控えめで、わりと普通の冒険小説といった印象です。
一方で「いかにもヴァンス!」といった異世界描写が気軽に楽しめ、作者の代表作と言える内容になっていると思います。
万人向けの一作でした。