「突如地球を襲った65536個の流星群」「意識の存在価値とは?」「謎の巨大構造物と最悪のファーストコンタクト」「脳を半分失った男が語る人類の最終局面」
といったものすごい宣伝文句が並ぶファーストコンタクトSFです。
随分前に書いた記事なんですが、ネガティブな感想なのでアップしてませんでした。
本作を楽しんだあとワクワクしながら感想を共有しようと思った人には、あまりこういうのは見せたくないわけですよ。
しかし刊行から随分たったのでそろそろこういう意見も出していいだろう……。
当時ネットでの感想を見たら大絶賛という感じでしたが、正直言うと僕はあまり楽しめませんでした。いや、かなりガッカリと言わねばなるまい。
材料はいいんだけど、調理がよくないという印象です。見た目は深そうだけど実は浅いという感じ。
あと情景描写がかなりいまいちで、なにがなんだかわからない場面が多々ある。
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ある日大量の流星が地球に降り注ぎ、原因を調べにいったら異星人と遭遇、接触を試みるも相手はあまりにも異質だった、といった話です。
基本はファーストコンタクトものなんですが、物語の主題は「意識と知性」の関係にあります。
このテーマを描くために、特殊な精神構造を持った登場人物が配置されています。
共感能力が乏しい代わりに相手を観察することによって心を読む能力を持った男、四重人格者、感覚器官を機械化した男、吸血鬼など、メインのキャラは変なのが揃っています。
通常の人間とは身体や精神の構造が異なっているキャラを登場させ、意識・知性とはどういうものか浮かび上がらせるという仕組みなんだな、とワクワクしました。
しかし本書を読む限りこれらの設定が活かされているとは言えないような気がします。正直言うと全く活かされてないと思う。
四重人格者の思考の仕組み、感覚器官を機械化した男の現実認識、吸血鬼の思考内容などの詳しい描写はほとんどありません。
これは「仕草を観察して思考を読む」能力を持つ主人公が語り手であるため、仕方ないと言えるのですが、異なる精神構造のキャラを出しておいてそれが説明されないんじゃ意味ないのではと思ってしまいます。
このあたりまさに、材料はいいのに調理がよくないと感じる部分でした。
本書に出てくる「吸血鬼」というのは文字通りの吸血鬼で、巻末の資料に生物学的な設定が詳しく書かれています。しかしこういうのは本編中に入れてほしかった……。
吸血鬼の知性は本作のテーマ部分にも関わってくるんですが、物語中で思考や生態についてたいして語られないため、これまた調理が失敗してる印象です。
そしてこの設定も、一見凝ってるように見えて浅い。
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中篇くらいの長さにして、テーマの表現に描写を絞ったなら結構な傑作になったと思います。
しかし宣伝文句やキャラ設定から想像される「認識論+アクションSF」的なものを期待して読むと「なんだこりゃ、つまんねぇ!」とものすごく腹立たしくなります。
いやみんな絶賛してるから僕の期待の方向が間違っていたんだとは思うけど。
しかし「65536個の彗星」という、文面だけで妄想がはかどる設定が有効に使われてないのは納得いかない。この行き場を失ったワクワク感をどうすればいいのか。
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冷静に振り返ってみるとそれほど悪い作品ではないと思います。
僕の期待が膨れ上がりすぎてただけなんだ……。
たぶんSF入門者とかが読むと、「すげぇ! SFすげぇっ!」となるんじゃないでしょうか。僕も十代のSF読み始めのころに出会っていれば、絶賛していたかもしれません。
しかしある程度SFを読み慣れてしまうと、「フムフム、テーマはこうでアイデアはこうか。この仕掛けのためにこのキャラ設定なのか。このガジェットはこういう伏線として使われるのだな」みたいにウザい読み方をするようになってしまうわけですよ。
出てくる要素がちゃんと活かされてないと「浅いわ!」と思ってしまう。ハードSF的な作品だと特にそう。
これから読もうとするSFマニアの人は、期待はほどほどにして軽めのアクションSFと思って読み進めれば、「意外に深いぞ!?」と楽しめるかもしれないぞ。