ヴァン・ヴォクトの長編第一作です。1946年の作品。
超能力種族「スラン」が迫害されている世界で、スランである主人公が仲間を探しつつ冒険する物語です。
主人公とヒロインが若いのでジュブナイルSFっぽいです。
しかし作品に漂う雰囲気はいかにもヴォクト的で、暗く孤独感が漂っている。
処女作ながらヴァクトらしさが充分にあらわれており、それでいてきっちりとまとまっています。
しかし小奇麗にまとまっているぶん物足りなさがないわけでもない……。
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天涯孤独の身となった主人公が仲間を探す物語と、人間の最高権力者に捕らわれたヒロインの物語が交互に語られていきます。
人間の社会も超能力者の社会も一枚岩でなく陰謀が渦巻いており、「無触毛スラン」という派閥の登場により三つ巴の争いとなります。
そんな中で主人公は、父の作った超兵器を手に入れたりスラン誕生の秘密を知ったりして、世界の危機を救うため右往左往するのでした。
閉塞感のある複雑な社会の中で超人主人公が暗躍するというのはまさにヴォクト的。
ヒロインのパートは息詰まる心理戦の応酬という感じになっていて、アクションSFとは違った魅力を出しています。
古いSFらしく、主人公が独力で宇宙船飛ばしたり秘密兵器を作ったりもします。
戦闘シーンもすごく大味。
今見るとそりゃないだろという感じですが、こういうのも昔のSFの魅力であるといえる。
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読んでるときは夢中になるものの、読み終わって物語を反芻すると「あれは何だったの?」という場面が多々あります。
後先考えずに思いつきで展開変えてる臭いがぷんぷん漂い、良くも悪くも先が読めない物語になっています。
このあたりまさにヴォクト作品。
火星とかなんだったんだ……。
結末も、意外な真実が明かされて衝撃的ではある一方、「そこで終わっていいの?」という感じがなきにしもあらず。
あと終盤で主人公の取る行動が、「これ正義のヒーローのやること?」という感じで、これは時代的なものなのだろうかと思いました。
今だと正統派の作品ではちょっとできないことをやってます。
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物語としての破綻がわりと少なく古典的名作扱いされているので一見良作ですが、他の作品を読んでから見直すとそこかしこに狂気が見て取れます。一粒で二度おいしい怪作といえよう。
ヴォクト初心者はまずこれから読むとよさそうだぞ。
ヴォクトの代名詞ともいえる「非Aシリーズ」は、完全にぶっ壊れてるので後回しにしよう。