毎回凝った設定や仕掛けで驚かせてくれる作者の、時間ループを扱った作品です。
ケン・グリムウッドの「リプレイ」が元ネタとなっています。作中でも言及されています。
この物語での時間ループは「現在の記憶を持ったまま10ヶ月前の自分に戻れる」というものです。過去への出発の日時と到着の日時は決まっています。
日時が決まっている上に巻き戻しの期間は十ヶ月とそれほど長くないので、戻った後の自由度もある程度限られるところがポイントの一つです。ギャンブルで大儲けという定番の願望はかなえられるものの、社会人ともなると十ヶ月程度の巻き戻しでは人生にさほど影響がないわけです。
主人公は謎の男に「十人の参加者と共に十ヶ月過去に戻れるツアー」への参加を打診されます。相当胡散臭い話ですが、男が地震の予言を的中させたことから半信半疑となり、好奇心も手伝ってツアー参加を申し出ます。
「リピート」の開始は二ヶ月ほど後となるため、話の三分の一くらいはリピートの日を待つ主人公の生活の様子が描かれます。
これといった事件は起きないものの作者の筆力のおかげか退屈せずに読めます。
中盤でようやく過去に戻ることができます。とはいえ十ヶ月戻るだけなのでさほど大きな変化もありません。
他の参加者と交流したり日々のこまごまとした部分で未来の知識を役立てたりと、主人公は地味にリピート生活を送っていきます。
しかし参加者が一人また一人と死んでいきます。最初のうちこそ不幸な事故に見えましたが、三人四人と死者が出るにつれ何者かがリピーターたちを狙っているに違いないと思うようになります。
でもリピーターの存在をしるのはリピーターだけです。なら誰が犯人なのか……。
さらに、未来の記憶を使ったことにより予想外の事件に巻き込まれてしまいリピート後の生活は徐々に混乱していきます。
という内容です。
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連続殺人の真相は、なるほど!と思わせるものでした。設定をうまく利用しています。
でもこの小説の魅力はトリッキーな設定だけでなく、主人公の日常生活にもあります。
主人公はうまく立ち回ったつもりになのに厳しい状況に陥ったりするのもおもしろいです。
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今回は再読でした。実を言うと最初に読んだときは、楽しめたものの少しモヤモヤが残りました。
僕はもともとSFファンだったので、リピート現象について「ここをもっと説明してくれよ!」とか「あれがネタの核心になるんじゃなかったのか?」と思ったりしました。面白いんだけど自分の想定とは全然違う方向に進んでしまい、普段トリックとか展開とかを考えながら読む僕はスッキリできなかったのです。
再読では話の方向性がわかっていたので余計なことを考えずに楽しめました。