「フェルマーの最終定理」が解かれるまでの経緯を追う物語です。
数学をテーマとしていますが、数学の知識は全く必要ありません。
フェルマーの最終定理という魔王に対し、数学界の英雄達が必殺証明を武器に戦うといった感じです。
最終的にボスを倒したのはアンドリュー・ワイルズという人で、とどめを刺すための聖剣を作ったのは日本人だったというあたりも興奮します。
「フェルマーの最終定理」という名前だけを見ると、なんかすごそうな感じがします。
僕も、世界の成り立ちの秘密が込められたとてつもない定理だと思ってました。
しかし実際は、難易度の超高いクイズという程度のものなのでした。
難問ではあるが、解明されたところで世の中に与える影響はないといった感じの。
問題を作ったフェルマー自身、ちょっとしたクイズ的にメモを書き残しただけのようです。
(しかも「証明できるが余白が足りない」とか言ってるわりには、実際は勘違いで証明できると思い込んでたフシがある)
多くの人々を悩ませた問題ではありますが、誕生から三世紀を経て、「数学者が人生をかけて取り組む仕事」ではなく、「数学パズルマニアが名誉のために挑戦する問題」といった扱いになってしまったのでした。
しかしです。
20世紀半ば、数学界の別の領域では「谷山・志村予想」なるものが提唱されました。
さらに研究が進むと「これが証明されれば数学の世界が大幅に進歩する」という様相を見せるようになりました。
そして、フェルマーの最終定理の証明は、谷山・志村予想の部分的証明にも繋がることが判明しました。
つまり、単なる数学クイズが数学界最先端の問題となったのです。
ちなみに、本書の数学解説は凡人でもそれなりにイメージできるように書かれていますが、この谷山・志村予想関連の話は全く意味がわからず「やっぱり数学者はおかしい……」と思ってしまうのでした。
.
この本を読んですごいと思ったのは、ワイルズという人が「割と普通の人」だったことです。
僕は天才数学者というと奇人変人ばかりというイメージがあるんですが、三世紀の間難攻不落だった城を落としたのは、これといった奇行のない努力型の天才なのでした。
少なくとも、本に書かれている限りでは、異常な記憶力とかびっくりするような奇癖は持っていない。
変わっているといえば、一人だけで研究を続けたということくらいでしょうか。
この「凡人が天才を出し抜いた」みたいな部分もワイルズさんの熱いところです。
.
固い題材を扱いながらも、ノンフィクション娯楽作品として楽しめる作品です。
これはおすすめ。