記憶を失った男が自分の過去を追うスリラー小説です。
クライムノベル風でもあります。
主人公は、素っ裸に靴だけをはいた姿で路上に倒れているところを発見されます。咽を斬られていましたがなんとか一命を取りとめます。
章が変わると、今度は素っ裸に靴だけをはいた男が咽を斬られて死んでいるのが発見されます。
この二人の関係と主人公の過去を軸として物語が進んでいきます。
設定は非常に魅力的です。表紙裏のあらすじや巻末の解説も期待を煽ります。しかし……。
発表当初は技巧的ですごかったのかもしれませんが、仕掛けに凝った小説が氾濫している今読むと衝撃が薄いです。
ラストにビックリポイントがあるものの「ふーん、そうだったんだ」くらいにしか感じませんでした。
話自体は悪くないと思うけど、表紙裏のあらすじに惹かれて過度な期待を持って読むとガッカリすると思います。
古典的な作品でも「幻の女」などはラストで驚けました。違いを考えてみると、「消された時間」は小説としての盛り上がりに欠けていて、主人公に感情移入しにくいのが原因のような気がします。善人とはいえない男なので、主人公と共にハラハラドキドキしにくいのです。読者には主人公の考えが読めず、行動を淡々と追うような展開になっています。
訳者にも問題があるかも知れません。非常に読みにくいです。
古い翻訳スリラー小説に特有の暗く緊迫感に満ちた雰囲気は堪能できるので、そういうのが好きな方はどうぞ。